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アメリカの金融恐慌以降、新規事業に活路を見いだす企業や人材整理を行う企業が増えた。そうした中で、社員を重んじ、一貫した経営方針で業績を維持している企業が注目されるようになった。袋物メーカーのヤマダ(本社・台東区)も創業以来の「ぶれない経営」により、得意先から揺るぎない信頼を得ている

平凡な仕事を徹底すれば、非凡となれる

仕入れた革の検品を行う野村一雄さんは、ヤマダの生き字引ともいえる存在(最上段)。2代目社長の山田征一さん(中段左)は、長男の山田大輔課長・31歳(中段右)と「ヤマダイズム」の継承に取り組んでいる。管理の行き届いた製品保管庫。結露を防ぐために、外気温と同じ状態に保たれている(最下段)。

 創業70年を超える老舗企業であるヤマダには、たくさんの「ない」がある。例えば、ホームページがない。自社のオリジナルブランドがない。メーカー直販サイトがない。小売店との直取引がない──。新たにOEM先を探している企業にとっては、物足りなく見えるかもしれない。
 だが、ヤマダの本社を訪ねると、平凡な印象が非凡に変わる。本社ビルは、地下の倉庫にいたるまで整理が行き届き、男性社員は誰もが制服の下にネクタイを締め、来客を気持ちのよいあいさつで迎えてくれる。老舗旅館にも通ずる、清潔で心地よい空間がそこには広がっている。
 「得意先を親父に例えるなら、私たちは女房です。女房というのは、親父のかゆいところに手が届かなければなりません」
 自らの存在をそう例えるのは、2代目社長の山田征一氏(67歳)だ。社長をはじめ、幹部社員に取材すると、「ヤマダらしさ」という言葉が頻繁に出てくる。その意味するところを本部長の野村一雄氏(67歳)は、次のように答えてくれた。
「得意先の要望に合わせた製品を作るのがOEMの仕事です。ですから、ヤマダらしさとは、色や形のことではありません。あえていうなら、品質や仕上げの均一さといってもよいかもしれません。1個でも100個でもヤマダの品質を満たした製品でなければ、絶対に出荷しません」
 そのために、本社内に教育実習室を設け、技術習得に力を入れている。生産は外部の職人に委託しているが、社員が作り手と同じ目を持って、生産管理、製品企画を行っているので、細かいところまで気配りができるという。
過去の名品にならい技を磨く、温故知新の物作り

ショールームには、過去の名品が陳列されている。左が1962年、右が1979年製(最上段)。外部の職人に渡す型紙にも気を配り、1枚1枚もれがないかチェックする(中段左)。教育実習室では、若手社員が財布作りの技術を先輩から教わっていた(最下段)。

 ヤマダの本社2階にあるショールームには、同社が製造した歴代の財布が壁一面に並んでいる。これにはふたつの意味がある。ひとつは、往年の名作をヒントに新しい商品企画を生み出すため。もうひとつは、名人の技で作られた製品を間近で見ることで、社員の意識を高める狙いがある。
「昭和30年代、40年代には脂の乗り切った職人が大勢いました。ここに並んでいるのは、中でもトップクラスの職人が作ったものです。ここまで手の込んだ財布を作れる職人はいなくなりましたが、ヤマダらしさの象徴として大切に保管しています」(野村本部長)
 同社が手がける財布は、百貨店の売り場に並ぶ有名ブランドのOEMが多い。内訳は紳士物が7割、婦人物が3割。2002年から中国で生産も始めたが、生産量は全体1割前後。主軸は、あくまで国内にある。だが、自社工場の開設は、70年を超える歴史の中で、一度も検討したことがないそうだ。
「外部の職人には『なんとしてでもいいものを作らなければ』というプロの自負があります。それに、ひとつの製品をひとりの職人が仕上げるので、指先に気持ちがこもっています。工場を作り、ライン作業にすると、そのよさが失われてしまう。それよりも専属の職人と二人三脚で物作りをしたほうがクオリティーの高い製品ができると考えています」
 今後の経営方針について山田社長にたずねると、こんな即座に答えが返ってきた。
「これから新しく何かを仕掛けるつもりはありません。大切なのは、得意先の要望に素早く、誠実に対応し、『やっぱりヤマダさんの仕事だね』といわれることです」
 製品の独自性ではなく、「ヤマダ」という暖簾(のれん)を守るために社員全員が努力を惜しまない。まさに老舗の商いに通じる気概がそこにはあった。
株式会社ヤマダ 会社概要
■事業内容 鞄・ハンドバック・紳士・婦人革小物の製造
■代表者名 山田 征一
■OEM担当者 山田 大輔
■資本金 2000万円
■従業員数 30人
■所在地 〒111-0052 台東区柳橋1-29-1
■電話 03-3862-8801
■FAX 03-3862-8806
■取扱品目 鞄、ハンドバック、紳士、婦人革小物
■メールアドレス s-yamada@chive.ocn.ne.jp