年間500型を超える新デザインを提案
昭和16年、台東区・浅草橋で同社は創業する。いまのファッション事情からは少し想像し難いが、その時代の日本は空前絶後の帽子ブーム。東京に住む人は平均して、ひとり6個の帽子を持っていたという。子供用の帽子もしかり。いくつもの帽子をかぶり分けるおしゃれな子供が町にはあふれていた。
当初は主に布帛の子供用帽子を扱っていた同社だが、戦後、時代の波とともに婦人用帽子の製造へ転換する。たしかな品質が見込まれて、現在は数多くの有名ブランド製品を手がけている。
井上進社長はこう話す。
「依頼を受けた通りにきっちりと製品を作って納めることも大切ですが、先方のイメージを刺激する斬新な帽子も作りたいと思っています。そのため、取引先に向けて年間500型以上の新デザインを提案しています。生地は生きているんですよ。その時代に合った生地を上手に生かしていく、利用していくのがわれわれの仕事です。特に布帛帽子は一枚布で作るものもあれば、パーツを縫い合わせるもの、リボンやコサージュなどを付けるものなどさまざまで、限りなくパターンがあります。洋服と合わせた時はどんな生地で、どんなデザインの帽子が映えるのかをわかりやすく提案するのが腕の見せどころです」
CAD・CAMシステムでスピード生産に対応
東光の帽子は、茨城県古河市にある自社工場で製造している。担当するのは経験を重ねた28名のスタッフたち。10年前に導入したデザイン設計システム「CAD(キャド)」と、パターン作りから生地の裁断までを行うシステム「CAM(キャム)」がスピード生産を実現する。
「CADでデザインを作ることによって、同時にデザインデータの管理もできますから、先方から何か修正が入った時の変更も楽です。修正後は取引先へ即時にデータ送信して、パソコンの画面上で確認いただけますしね。帽子って面白いもので、何年かに一回、昔の形に近いデザインが流行ります。新しくご注文を受けたデザインでも、過去に似た感じのものを作っていることが多いので、その時のデザインデータにいま風のアレンジを加えて、スピーディーにご提案することができます」
CADに連動させたCAMを使うことによって、すべての生地を正確に、ゆがみなく裁断できることもメリットである。裁断の美しさは仕上がりに大きく影響するポイント。同社では製品はもちろん、サンプル品もCAD、CAMで作っている。
とはいっても――と井上社長は続ける。「やっぱり人間の経験がないといくら機械が優秀でもいい帽子は作れません。硬い風合いを出したいから裏には厚い芯地を張ろうとか、この生地は伸びるから微妙に小さ目に縫製しよう、ステッチを多くしたほうがきれいに仕上がるから、通常よりも多い縫い目数にしようなど、最後は人間の目とノウハウの蓄積が生きます」 機械化による大量生産は得意中の得意ではあるが、一方で少量生産にも応じている。「年々、小ロット・多品種生産の傾向が強まっています。現在は1型あたりの注文数は平均240個。1色20個ずつ、3色で計60個という小ロット生産にも対応しています」
同社の製品は取引先から「なんだか優しい感じ、柔らかい感じがする」といわれることが多いという。作り手の人柄だろうか――取材を終えて同社を去る時、入り口を出て、外まで見送りに来てくださった井上社長の顔を見て、ふとそんな気がした。
※株式会社東光は2009年8月に社長が交代し、岸田勝之氏が社長に就任しました。掲載記事は取材時(2008年9月)のものです。
INFORMATION
■ 事業内容
帽子製造卸
■ 代表名
岸田 勝之
■ 資本金
1000万円
■ 従業員数
37人
■ 所在地
〒103-001 東京都中央区日本橋 堀留町1-8-11 6F
■ 電話
03-6231-0722
■ FAX
03-6231-0844
■ 取扱品目
婦人・紳士帽子
■ E-mail
kikakushitu-1d@toh-koh.ne.jp