ヨーロッパの老舗ブランドを超える技術を目指す
革包司博庵(以下、ヒロアン)のことを知るには、社歴よりも、まず技術の高さを紹介したほうがわかりやすいだろう。例えば、「ミガキ」という革の断面の仕上げ方法がある。一般的な財布は、断面に塗料を塗り重ねて仕上げるものが多いが、同社では布で断面を繰り返し磨き、自然な光沢を出す、昔ながらの製法にこだわっている。
見る者をうならせるのは、「ベタ貼り」という製法だ。表革の裏に、0.5ミリの薄さにすいた革を寸分の狂いもなく貼り合わせる技法で、ヒロアン以外では見かけない高度な技法だ。折り曲げても裏地がたわまないため、1枚の革だと錯覚するほどである。
「足し算より引き算の仕事」と長谷川博司社長(59歳)が指摘するように、同社の財布は、奇をてらわず、手間をかけることで、革製品の魅力を引き出している。価格は決して安くないが、熱心なファンからの注文が絶えることはなく、工房はフル稼働状態だ。その一方で、国内の生産ネットワークを生かし、国内の大手アパレルブランドからOEMも受託している。現在、OEMと自社ブランド品の売上比率は半々だという。
意外なことに、長谷川氏は財布作りの技術を他人から教わったことはない。実家は、祖父の代から続くメーカーだが、「父には職人になる必要はない」といわれていたそうだ。
「職人を指導するには、職人以上の腕を持ってなければついてきてくれません。ヨーロッパのメゾンブランドが作る製品を手本に、独学で技を覚えました。向こうの職人たちに『もとはおれたちだったが、お前もやるな』といわれるものを作りたい、そう思ってこの仕事を続けてきました。」
紳士財布とは、革を使った「総合芸術」
長谷川社長は、高校卒業後、いわゆる袋物業界に入った。実家(長谷川製作所)は、祖父の代から続く紳士財布のメーカー。3人兄弟の末っ子である長谷川氏は、2人の兄ともに家業を担ってきた。経営は兄、製品の企画や製造は弟(長谷川博司氏)が受け持った。時代は高度成長期。「永遠に右肩上がりが続くと錯覚した」ほど業績は好調だった。しかし、1980年代後半になると、安価な中国製品が市場を席巻。兄が経営する会社も、時代の流れに対応すべく、中国の提携工場に生産を委託するようになった。
「いまは好調でも景気が悪くなる日は、必ずやって来る。そのときに技術を培っていなかったら足をすくわれる。そう思い、技術を深化させてきました」
2000年に独立し、自らの名を冠したブランド『ヒロアン』を立ち上げたのは、これまでに培った技を開花させたいと思ったからだ。ちなみに、社名にある革包司(かわほうし)とは、財布屋という意味。あえて横文字にせず、日本人としてのアイデンティティーをブランド名に込めた。
長谷川氏は先代から技を教わることはなかったが、いまも大切にしている社訓がある。「道具の創造こそが優秀といわれる職人の力なり」という言葉だ。
「祖父はいち職人でしたが、自分で使いやすい道具を作り、ものすごい数の道具をそろえていました。私も製品の完成度を高めるために、必要な道具はぜんぶ自作しています。材料も、出来合いの革を仕入れるのではなく、タンナーに特注したものを使っています。紳士物の財布は、総合芸術。技術だけがあってもだめなのです」
ひたむきな努力のかいあって、いまでは得意先のバイヤーからヨーロッパのメゾンブランドにも匹敵すると評価されるようになった。目下の目標は、次の世代に技術を伝えていくことだ。ヒロアンに財布作りを依頼したいという企業のOEM担当者はもちろんのこと、長谷川氏に続く、すご腕の職人を目指す若い人にも同社の門戸は開かれている。
INFORMATION
■ 事業内容
紳士用専門革小物製造卸
■ 代表名
長谷川 博司
■ OEM担当者
長谷川 博司
■ 資本金
1000万円
■ 従業員数
4人
■ 所在地
〒111-0051 台東区蔵前4-4-1
■ 電話
03-5833-7166
■ FAX
03-5833-7106
■ 取扱品目
束入、札入、名刺入、小銭入
■ 自社ブランド
HIROAN(ヒロアン)
■ E-mail
maroquinerie@hiroan.co.jp