インタビュー

ゲスト審査員の皆様から、今回のコンペ全体のご講評や受賞作品についての印象、次回以降の応募者に向けたメッセージをいただきました。

第31回ザッカデザイン画コンペティションを振り返って

木村麻里/松屋銀座本店 紳士雑貨 バイヤー
木村麻里
松屋銀座本店 紳士雑貨 バイヤー

木村:私は前回より参加させていただいていますが、昨年はオリンピックやインバウンドを意識した作品が多かった一方で、今年はコロナウィルスの感染拡大といった大きな出来事がありましたし、去年の応募作品とはまったく違う印象でした。

また、偶然かもしれませんが、動物をモチーフにしたアイデアやアイテムが多かったように思います。無意識に、「可愛らしさ」や「癒し」というキーワードが、今年の共通するものとしてあったのかもしれません。今は猫のモチーフのものが店頭で売れているので、そういったことも応募作品の傾向に表れていたのかなと思いました。

Interview_02
鴨志田康人
㈱オフィスカモシタ 代表取締役
㈱ユナイテッドアローズ 第一事業本部 クリエイティブアドバイザー

鴨志田:今年はコロナ禍だからなのか、個人的に和むものや可愛らしいものに意識が向いていたように思いますが、応募作品にもそういったものが多かったように感じました。革製品の良さというのは、経年変化があり、革でしか出せない味わいにあると思います。そういった意味で、味わい深く長く愛用できる革製品は、使う人を和ませるという要素があると思います。それは、アイデアややりようによってうまく活かすことができますし、受賞作品の中にはそういったものが多かったように感じました。

Interview_03
南馬越一義
株式会社ビームス 執行役員
開発事業本部 ディレクション部 ディレクタールーム長
エグゼクティブディレクター

南馬越:今年の時世を反映した応募作品は、思ったよりは少なかった気がしています。大賞となった「DELTA BOOTS」は、大賞たる堂々としたものだと感じました。全体としては、少し面白みに欠けるところはあったと思いますが、今年は外出自粛といった状況があったので、この体験から何か新しいアイデアやイマジネーションが生まれて、次回の応募作品の中に活かされて欲しいですね。

Interview_04
(左)八木奈央・(右)勝井北斗
ミントデザインズ デザイナー

八木:今回受賞された作品の中には、いくつかインテリアだと感じるものがありましたが、ファッションとインテリアは境界線がないものも多いと思うので、すごくいい着眼点だと思いました。長く使うことで経年変化が楽しめるインテリア小物という視点は新しいと思うので、今回の結果でそういった作品があってもいいんだということが応募者に伝わり、今後もっとトライしていただけると面白いと思います。

勝井:今年のパンデミックの状況で、外出するよりも自宅で長い時間を過ごす人が多かったせいか、身の周りのものや、おうち時間を楽しいものにするプロダクトが受賞したように思います。逆に、バッグや靴といった部門は全体的に弱く感じたので、外に出かけることを意識したデザインが、一刻も早くできる状況になるといいなと思います。

審査員賞に選んだ作品について

南馬越:僕は見た目やデザインのインパクトを基準に選んでいますが、この作品は華があり、可愛いデザインだと思いました。コンセプトの部分にサスティナビリティの視点が入っているのもいいですね。仕上がったものを見てみたい帽子だと思います。

木村:(「レザープランツ」について)商品を販売する立場から、売り場に置いた時のことを考えながら選びました。革製品の製造過程で出た残革を使えたりするとより良いのかなと思います。デザイン画は平面となっていますが、少し湾曲させたり、立体感を出して作ってみるのもいいかもしれません。

鴨志田:他の審査員賞作品にもいくつか投票しましたが、中でも「cotori」は完成度が高く、本当に可愛らしい作品だと思います。実用的でありながら、いい意味での無駄がある。若い人が持っていてもいいし、おばあちゃんが使っていても可愛いなと。ヌメ革っぽいので、色がだんだん変わっていくことで愛着がわくだろうし、素直にいい作品だと感じました。

八木:革製品のコンペティションなので、もう少しプロダクト的なアプローチの応募があると思っていたのですが、意外とファッションの視点からの応募が多く、そういった意味でこの作品は珍しいなという印象を受けました。この時代に合ってると感じましたし、売り場で映えそうなプロダクトだと思ったのが選んだ理由です。

勝井:審査をしてる時から、このベロにロックオンしちゃいましたね(笑)。なぜだか分からないけれど、もう忘れられなくなってしまって。真新しいのか、斬新なのかは分からないんですが、なんだか惹かれてしまう。ベロの部分がエイの革だというのもまたいいですね。ザラザラした質感とか、仕上がった時にどんな感じになるんだろう。「ミンティア」ケースという提案も面白いと思います。そういった、ある意味で無駄に思えるようなアイデアに惹かれました。

今後の応募者へメッセージ

南馬越:今まで見たことがないようなものを応募してきて欲しいと思います。実際に作れるかどうかが分からなくても、とにかく面白くて、インパクトのあるもの。「こんな使い方があったんだ」といった、使い方に変化があるイノベーティブなアイデアもあると思うんです。そんな切り口で、見たことないアイデアを期待したい。イマジネーションを解き放って描いてもらえるといいですね。

勝井:賞を取ろうだとか、そういったことではなく、とにかく楽しんでデザインをして欲しいなと思います。特に学生さんには頑張って欲しい。どこか「やらされているな」と感じるデザインは、作品からなんとなく分かるものです。逆に「これはノって描いてるな」ということも伝わってくるので、そういった応募が増えてくるといいなと思います。

八木:学生さんや若い方にとって、自分の作品を見てもらい、講評してもらうということは、とてもプラスになることだと思います。幸いこのコンペは応募作品数に制限がないので、いろんなタイプのものをたくさん応募してみたらいいんじゃないかな、と個人的には思っています。「酷評されたくない」「くだらないって思われたくない」といった、慎重になりすぎている作品がある気がしているので、「とりあえず出してみる」ということがとても重要だと思います。

鴨志田:ファッションというものは、夢を売る商売であり、クリエイションそのものなので、固く考えずに、もっともっと夢のある作品を出してもらいたいなと思います。今回は、こじんまりしている作品が多かった印象があります。また、「革製である必要がないじゃないか」という作品が大半を占めているので、革という素材の性質を勉強し、その特性を考えることで、革製品のデザインを楽しんで欲しいです。

木村:私自身はゼロからものを作るということがないので、今回の審査を通して、ものを作るという行為そのものが、とても素敵なことだと改めて感じました。特に、若い方たちの作品に触れることができるこういった場は、ファッションやデザインの領域に限らず、今の時代に求められていることだと思います。そういった意味でも、このコンペティションが若い方にとって今後の活躍へのチャンスになるといいですね。