外反母趾に悩む娘の足を見て、独学で木型を作り始める

ダイナス製靴の創業者で木型職人でもある、菊地武男氏が何度も修正を重ねて削った木型(最上段)。創業者の三女に当たる水野まり子氏が、四代目の社長を務める(中段右)。工場内には足の骨格のイラストが掲示されている(最下段)。
ダイナス製靴という社名は知らなくても、「菊地武男の靴」といえば、聞き覚えがあるという方は多いのではないだろうか。それほど「菊地武男の靴」という名前は、大手通販のカタログや新聞広告でくり返し紹介されてきた。
ダイナス製靴の歴史は、創業者である菊地武男氏(86歳・ダイナス製靴会長)が1949年に設立した菊地商店に始まる。当初は、靴の小売卸業を営んでいたが、1966年からメーカーに業態を転換し、婦人靴を製造するようになった。現在のような独自の木型を使った靴を作り始めたのは、創業者の三女で現社長の水野まり子(61歳)氏の外反母趾がきっかけだったという。
「私は、足のサイズが23cmと小さく、ワイズも2Eとやや幅広だったため、ぴったり合う靴がなかなかありませんでした。はげしく型くずれした私の靴を見て、父は従来の木型に疑問を持つようになりました。同じ頃、オーダーメイドの靴を作るようになったこともあって、父は木型のことを熱心に研究するようになりました」
菊地武男氏は、人体の足の構造を理解するために、美術大学で美術解剖学を学んだ。靴の履き心地を調べるために計測器も独自に開発した。そして、自らの考えに基づき、木型を作るようになった。そうした経験を生かし、シューフィッター制度の立ち上げにも尽力。1985年には国内初のシューフィッターに認定された。
北区王子にある自社ビル内には、菊地武男氏が30年近くにわたって作り続けてきた数千型の木型が、いまも大切に保管されている。このオリジナル木型こそ、ダイナス製靴の原点であり、財産ともいえる。
新聞の通販広告で大ヒット。全国区のブランドに

デザインに合わせ木型を作るのではなく、木型に合わせた靴を作るのがダイナス製靴のポリシー。革の裁断、縫製のみ外注に出し、つり込みやかぶせ、仕上げの作業は本社ビル内の工房で行っている(中段写真)。
履き心地のよさを追求するということは、反面、手間がかかることであり、製品の価格にはね返る。2万円台の商品が中心だった菊地武男の靴は、かつては知られざるブランドだった。その名が全国的に知られるようになったのは、1984年に全国紙で紹介されてからだ。
「朝日新聞の家庭欄で、外反母趾対応の靴として紹介されたのが契機となりました。1991年からは通販会社が出している新聞広告で、何度も取り上げられるようになりました。通販で靴を販売してもよいものか、ずいぶん悩みました。でも、サイズ交換、返品も含め購入後のフォローを万全に行うことで対応しました」
いまでこそ、靴を通販で買うことは珍しくなくなったが、当時は業界から不評を買い、小売店から取引中止を告げられたこともあった。そうした苦境を乗り越え、売り上げの約2割を通販が占めるようになった。通販で得たノウハウを生かし、2009年からは楽天市場に出店し、メーカー直販にも力を入れている。
菊地武男の名前が消費者に浸透したいま、水野社長が力を入れているのが、ブランドの世代交代だ。同社の婦人靴には、マコ、チコ、デコの3つのシリーズがある。エレガントなデザインのマコ、幅広の木型を使ったチコ、ウォーキングに対応したデコ。現在はチコが主流だが、今後はマコを基軸にして、若い女性にアピールしたいと水野社長はいう。
「ドイツ系のコンフォートシューズが入ってきて、市場は飽和状態になっています。今後は、アパレルや雑貨店といった異業種とコラボして、ブランドの枠組みにとらわれない靴を作り、デパートや専門店以外の販路を広げていきたいと思っています。OEMというよりは、新しいブランドを一緒に育てるパートナーが現れたら、ぜひお仕事したいですね」
ダイナス製靴株式会社 会社概要
■事業内容 |
革靴(主に婦人靴)の製造・卸 |
■代表者名 |
水野 まり子 |
■営業担当者 |
水野 和夫 |
■資本金 |
1000万円 |
■従業員数 |
50人 |
■所在地 |
〒114-0022 北区王子本町1-5-13 |
■電話 |
03-3908-1754 |
■FAX |
03-3909-4142 |
■取扱品目 |
紳士靴、婦人靴 |
■自社ブランド |
菊地の靴、菊地武男の靴、Pido-cur |
■メールアドレス |
ホームページのメールフォームからお問い合わせください |
■ホームページ |
http://www.dinus.co.jp/ |