第24回ザッカデザイン画コンペティションで大賞を受賞され、現在、台東区内の国産婦人革靴メーカーである、株式会社シャミオールにて企画として活躍されている猪股克圭(いのまたかつよし)さんに受賞された当時を振り返っていただき、お話しを伺いました。
当時は、サッカースパイクの修理をしていました。具体的には、アッパー部分にあて革をして補修したり、ステッチのほつれを補強するなどの作業をしていました。また、お客様のオーダーを聞いて、クッションを多く入れてフィッティングの調整をしたり、ステッチを入れて革が伸びにくいようにするなどのカスタムの作業をしていました。
都内の専門学校にて、靴のデザインから製造までの工程を勉強したことがきっかけで、靴のデザイン画を描いたり、コンペに参加するのが好きになり、当コンペに参加しました。
デザインについては、パンプスの上の甲の部分にさらに革をのせるなど、既存の婦人靴にはないようなデザインを意識しました。また、「水」がテーマの作品だったので、インターネットの画像や文献で水に関する資料を集めてイメージを膨らませてデザインを決めていきました。そのうえで、デザイン画については、イラストレーターやフォトショップを活用して、大前提として、見ていただく方々に失礼のないようにキレイに描くこと、そして、実際に制作することを意識して、素材・製法・ヒール高などの詳細な情報を入れることで「わかりやすさ」を特に意識して制作しました。
実際には、コンペの受賞と弊社への入社は関係ないんです。実は、コンペの参加とは別に、同時期に靴の生産に携われるような企業への転職活動をしており、弊社の入社試験に応募していました。コンペで大賞をいただくよりも少し前に、弊社から内定をいただいていました。その後、実際にコンペの大賞作品を制作するのが弊社だと知って、本当に運命のようなものを感じました。(裏で何がおこってるのかと不安に思うくらいでした。笑)
イベントを通じては、見た目を重視して商品を買っていかれるお客様が多かったのですが、せっかくですので、見た目以外の優れている点につきましても、今後も積極的に店頭でお客様に伝えていきたいとも考えております。
メーカーの企画として、お客様(靴の問屋)が描いたデザインを型紙におこして形にして、作り手(職人さん)に依頼する仕事をしています。また、自分でデザイン画を描いて、お客様に提案するような営業をしています。靴のデザイン画を描くことはもともと好きな作業なので、楽しんで取り組んでいます。一方で、デザイン画を立体にする作業については、革の状態によって制作過程を考えたり、予算内でいかにデザイン通りの形にするか等に日々苦労しており、靴づくりの難しさを実感しています。
ただ、大前提として、靴が好きなので靴の生産に関われることが仕事をするうえで最大のモチベーションになっています。社内には、縫う職人さん、そこ付けする職人さん、営業担当の方々など、各セクションにプロがいらっしゃいます。そういう方々に靴について教えてもらえるのが、本当に楽しくて勉強になっています。
猪股さんがデザインを手がけた商品上司の教えでもありますが、形におこす際は、「線にこだわりをもって」設計していきます。この工程で出来上がりの見た目がほぼ決まっていくので、かなり神経を使って作業しています。また、デザイナーさんによって、それぞれ癖や好みが違うので、デザイン画からそれを読み取って、形にするよう注意しています。
デザイン画を描く際は、「わかりやすく、簡単に」を意識しています。デザイン画を見た相手に理解してもらえるように、平面図に加えて、立体図や詳細資料をつけるなどの工夫をしています。また、デザイン画を立体にする作業での経験を活かして、デザイン画を描くときは、実際に形にできるかどうかを意識するようになりました。
自分の会社だけでなく、周りにある革屋さん、資材屋さんどうしの仲が本当によくて、それぞれが協力しあって商品ができています。靴でも鞄でも、そういった皆様の協力なくして商品は作れないと思っています。このように、メーカー、問屋、資材屋どうしの横のつながりが強く、色々な方々と出会えることが、産地のメーカーで働く意義だと思います。
コンペに参加してその結果を通じて、どういう作品がコンペの趣旨にあっていたのかということや、多くの作品から刺激を受けることで、自分の枠を広げることができると思います。受賞作品に選ばれること以前に、そういったところが、コンペに参加することの大きな意義だと思います。皆さんにもこのような機会をどんどん活用していっていただきたいと思います。
東京都出身
都内専門学校にて、靴づくりを学び、スポーツシューズメーカーに入社し、販売、カスタマー担当として活躍。
平成25年度第24回デザイン画コンペにて大賞受賞。
同年、台東区内の国産婦人革靴メーカーの株式会社シャミオールに入社し、現在、企画として活躍中。